どこか遠くの街の道ばたで

朝、春にはなったけれどまだまだ肌寒さを感じる。田舎の農道の脇には麦が金色に朝日に輝いていて、麦秋そのものの風景がまるで、できすぎた絵みたいにそこにある。
その横を、電動車椅子のおじいさんがソロで散歩している。正確には歩いてはいないのだけれども、その車椅子には三匹の犬が繋がれている。
電動車椅子の独特のゆったりとした動きに合わせて、引っ張るでもなく、引っ張られるでもなく歩調を合わせて歩いている。三匹の尻尾はピンと上を向いていて、機嫌のいい様子。
ちゃんとしつけられている犬を見ると心がスッとする。

その景色を出社中の車の中から一瞬で見る。そしてその風景が頭の中で物語を作り出し、詳細な設定や生活の場面などが動き出す。

車は会社に到着する。カードをバーにかざし、車をだだっ広い駐車場に停める。そしてまた一日が動き出す。私はここにいる。心の中はどこにいるのだろう。