飛び出したい、ここではないどこかに

どこかに引っかかってしまい、なくしてしまったらしいもの。
古い友達や大事な(大事だった人)とは、実際に会えばそれまでの空白がいっきに飛び、前と同じように接して、それはいつまでも変わらないもののように感じていた。

だからこそ別に連絡を取り続けなくてもいいと思っていた、というべきか、それとも面倒くさいとか接触を取り続けるにやましい理由が自分になにかあったりしたからか、自分の中のなにかがすこしづつ損なわれていったせいか、徐々にひとりになりつつある。

あなたに会いたい 会いたいと思うが
そこには知らないあなたが いるような気がして
逃げ出したくなる 涙が出てくる

私は夢の中で 目を覚ましている
すべてがまるで不確かで とても幸せで

それはシンプルで、あまりものを考えずに済むし、山になった夏物の服(よさげな言い回しで表現すると「夏のぬけがら」)を片付けることや庭の草むしり(イネ科の地下茎でゲリラの細胞組織のように増殖する悪いやつら)をしなきゃならない。黒あばれ(ホンモノのあばれ犬*1)が唯一怖がり、敵意を持つドブ(側溝)を克服させること。まったく克服する必要はないけれど、長期的な面白チャレンジとしてであるが。王将の餃子倶楽部(フリーメーソン的な選ばれたものしか入会できないUSの大学の学生会のようなもの)の会員としての特権を行使すること。病院にちゃんと通うことなど、やらなければならないことを書き出したら忙しそうな気もするが、生活はびっくりするほどシンプル&ソリッドになっている。


そんな私だが、人とのコミュニケーションを取ろうとしている。まあ平たくいうと「どうぶつの森」をやってみたくなったのである。しかし、XBOXでソフトが10本あるのにやっていない、DSでやったのはズーキーパーとDrマリオぐらい(死屍累々のソフトというが積みゲーがたくさん)、ドラクエすれ違い通信でひたすら宿屋に人を増やすことはしたけれど、ストーリーの序盤、あっさり初期のボス戦で殺されてくじけるレベルまでしか進めていない。Wiiでもパッケージの開けていないソフトが満載の私には、どうしても3DSをポチることができない。だから、きっとあっという間に使わなくなるだろうから、買ったけれど全然使ってないという人がいたら、ブックオフの買い取り金額ぐらいで譲ってください。
と、お願いしてみたはいいけれど、のんびりと畑を耕したり釣りをしたりするゲームを自分はやれるんだろうかという疑念は抱いたままである。

私の抱いているどうぶつの森のイメージを言葉にしてみる。正直全然よくわからないんですよね……

ひっそりとした村のはずれで畑を耕している
新規農地なので、石ころの除去をしているうちに2ヶ月が過ぎ、作付け期を逃し中古のビニールハウスで枯れてしまい、それを見えないことにして、自分のできる範囲で石をネコ(一輪車)に気だるく投げる日々
訪れる人は共同購入で新しい農薬を買おうよと言いながら、断ることを許さぬ調子が言外からギリッと伝わり、後払いでいいからと簡易倉庫にぎっしりと詰まれている
明るい人たちが村の祭りに誘ってくれるが、どうも行く気になれない。
カレンダーはめくられず、端がすこし湿気を吸って丸くなり、今がいつなのかわからない
石はずいぶん減ったが、この前家を訪れたやさしい人に「これは土地の改良が必要だよ、pHがね…」と説明してもらったけれど、難しくてよくわからない。酸とアルカリによって作っていいもの、よくないものがあるらしい
朝早く目覚めたら、家の前に驚くほどの数のサルの群れがいたが、取るものもないので、あきれたのかのんびりした調子で逃げるでもなく、私が場違いな気がして、家の中でその日はじっとしていた
たまの暖かな午後に、一瞬、幸福に良く似た感情を覚えることがある。空は青く、うすい雲をなにも考えずに眺める
時が少し過ぎふと気づくと、あんなにたくさんいた人々はどこかに行ってしまったようで、無人の豪華な家がそこらかしこに存在している。それを横目で川に釣りに行く私。わずかな現金収入兼食料となるからだ。のんびりと釣りをするが、小型の外来魚を釣り上げ、それを無表情で針をはずしびくの中に入れる。にじますや鮎なんかはどこに行ったのかなと思う。

ひっそりとした村のはずれで畑を耕している。除去したはずだった石が金属にガチッと当たる音と感触が、私の心をすこしうがつ。
ようやく作物を植えることができるようになり、失敗することは絶対にできないと、丁寧に丁寧に仕事をする。ようやく土の上に見えた葉は、それはとても鮮やかな緑で、眼に優しくにじみ、なんのわだかまりもなくうれしさという感情を思い出し、ひとりで小さな声で快哉とはいわないまでもよろこびの言葉が漏れる。

朝にいつもより多い鳥の声、窓から外を見ると、まさか……。そのまさかだった。あのきれいな緑が、別に食べるわけでもなく汚されている。口を真一文字に結び、対策をする私。いつしか私の畑は、さまざまな工夫を凝らしたブービートラップだらけになっているが、私はどれにも触れずに仕事を淡々とする。同時に毎朝集めた、口数のすくない森のともだちを葬送するための燻製作りを覚え、手つきも慣れてきた。一斗缶でも工夫すれば案外できるものだ。

夏が来て、もうすっかりルーティンと化した釣りの帰りに鹿の親子がいた。つめたい海の底のような色をした虚無の瞳で遠くから見つめる。その晩から夕飯を終えた後、山から持ってきた木の端をランボーが持っていそうなナイフで尖らせ壁に立てかけるという仕事を体調がどうであれ、必ず終えてから眠りにつくようになる。ここに住んでからずいぶん筋肉がついたものだなと自分の体を久しぶりにまじまじと観察して、他人事のように感心する。どうぶつたちとの本気のやりとりはこれからだ。
どうぶつたちは予想もしなかった光景を目にし、体験するが、それはなにかに受け継がれることはないが、私の血となり肉となり、なにより私の脆弱な心を支える硬度の高い骨格として生きることになる。
最近では、家の壁の外にも自分の感覚の幅が広がったと感じるように、必要な感覚の深度が増している。
今日は、水浴びをして服を着替え血のにおいを消し、外界接触モードに切り替え、市場に持っていくものを整理し、笑顔と挨拶の練習をして、あたためた泡を手製のシェービング・クリームをおどけた絵を描くように顔に塗り、ナイフでひげを剃り終え、さあ、出かける時間だ……

みんな、行こうよ!どうぶつの森へ!!一緒にやろうよ!楽しいよ!(きっと)


どこかにいきたいだけかもしれないね。モナ・シンプソンのやつじゃないけれど。

*1:心のつくりがおそろしいほどにシンプルという意味で