黄色い車


公道を車で走っていると、たまに黄色い車とすれ違うことがあります。その度に私は心の中で「黄色い車」と声を上げ、すこしうれしいような悲しいような気持ちになります。どうしてそう感じるようになったかを今から書くのですが、私はナイーブ*1で卑怯なので、かなりぬるくて痛い話*2ですが許してくださいと前置きをしたら、どんな事を書いても正気だと思ってもらえるんじゃないかと思って……。

すこし前の話になります。その時住んでいたところからちょっと離れた、ニワトリランド的な名前を持った場所に遊びにゆこうとして、ちいさな車に二人で乗っていました。天気がとてもいい日曜日、まさにTwo Of Us,二人でドライブ。いつも昼過ぎまで寝てしまうのですが、その日はとても早起きをしていたため、午前中のそれほど混んでいない国道を、スムーズに気持ちよく走ることができました。そんな時、隣の席から「黄色い車!」と急に大きな声で叫ばれ、私は胸がぎゅっと痛くなるほど驚き、なにかが飛び出してきたのかと思わず急ブレーキを踏みました。息をゆっくり吐きながら、どうしてそんなに大きな声で叫ぶ必要があるのか、黄色い車はどこにでもあるじゃないかと訊ねると、「黄色い車を見つけて黄色い車!って言うといい事がある」と屈託なく、とっておきのことを教えてあげるといった調子で答えられました。
急ブレーキで心拍数が上がったままだった私は、バカバカしい、それだったら黄色い車を買えばいいじゃないか、近所に黄色い車がある人はいい事だらけじゃないかと、ちょっと小ばかにしたように話を*3しました。常識的に考えたらわかるだろうと言わんばかりに。
そうすると、すこしの間黙り込んだ後で、「あなたがそういう風に思うのは自由だけど、人が喜んでいるのを小ばかにしてそんな風に台無しにすることないじゃないか。ちょっとの楽しみをダメにして誰が得するの」という内容のことを低いトーンで言われました。もうドライブもどんよりムード。道も渋滞。アシュラマンでいうと冷血モードです。車内の音は流れている音楽の音だけ。言われた事はその通り*4で、別にそうかと流せばいいようなことでした。すぐに謝ればいいのですが、上手に謝ることができないので、無言のまま三十分ほどドライブは続き、どのように打開すればいいか、笑ってうまく切り抜ける作戦を考えました。目的地が近づいてきて、ああ、時間切れでもうだめかなと思ったころに古い黄色のフェアレディZが対向車として接近するのが見えました。チャンス到来!とばかりに「黄色い車!」と芝居がかったような調子で声を上げました。隣は無言。「これでいいことあるかもね」とすこし反応をうかがうような調子で続けると、「そういうコミカルな芝居っぽいのは大嫌いだし、今の車はレモン色!」と返されましたが、怒っているような、あきれたような顔に変化していて、すこし気持ちはほぐれました。
それからすこしの時間が経ち、私は違う車を違う場所で走らせています。私はバカにしていたはずの「ラッキーな黄色い車」の法則を、いつも黄色い車を見かける度に思い出していることに気づいて、そんな自分に驚き、すこしの痛みを感じながら、自分にではなくて、遠いところにいる人によい事が起きて、胸が痛くなったりすることがもうないようにと願いました。



(MP3)Two Of Us(another rec) - The Beatles

Two of us riding nowhere Spending someone's
Hard earned pay You and me Sunday driving Not arriving
On our way back home
We're on our way home
We're on our way home
We're going home
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You and I have memories
Longer than the road that stretches out ahead
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ぼくら二人なんとなくドライブ
誰かががんばって稼いだお金で
ぼくら二人日曜日ドライブ
どこにも着かない
家に帰っている途中
帰ってるとこ

ぼくら二人には思い出があって
この前の道よりも長い


"cat,tender"

*1:英語ではどういう意味かじゃなくって、カタカナの意味で

*2:激痛

*3:黒くて悪いものがウヒャヒャと笑っているような感じで

*4:身近な人に対して小ばかにしたような態度で接するのはアイタタな人だけなので