百獣合体の夜

古くからの友だちが、遠くから私の家に遊びに来た。五歳になる男の子を連れて。子どもは朝から電車に揺られ、おとなしくしているように強いられていたからか、私の家に到着した瞬間、ストッパーがポンと外れたように激しく動き始める。友だちと話をする暇などなく、夕方から夜ごはんを挟んで、文字通りまったく休まずに、エネルギーを必死で消費しているように、とにかく動く。走る、話す。
私にすこしなじんできた子どもが「ちょっとちょっと」と呼ぶのでついてゆくと、クルっと階段の四段目ぐらいで振り返り、満面の笑みを浮かべながら突然前触れもなく私に向かってジャンプするという、 トペ ・ スイシーダのような、命知らずな技を繰り出し、心の底から驚いた。私が極めて俊敏かつベストチョイスな対応で受け止めることができたからよいようなもの、私でない誰かだった場合は床に落下、一歩間違えば大ケガ、病院、松葉杖、車椅子。子どもの相手を信頼する、疑わない力というものはすごいと感心しました。
子どもと遊ぶ新鮮さもすこし薄れ、さすがに疲れて休息したくて休息したくてたまらなくなり、ソファーに偉い社長のような格好でだらしなく座ったのですが、まだまだ私は解放してもらえませんでした。ニコニコした子どもは私の肩に手をかけ、ささやくように「百獣合体しよ」と言いました。私がその言葉の意味がわからずに戸惑っていると、子どもは無言で私の方に足をかけワッサワッサと登り、肩車の形になって「ゆけ、レックーザ*1」と立ち上がるよう、手振りで命令。言われるがままに立ち上がり、動物園にいるノイローゼの動物のように部屋の中を何度もグルグル練り歩くのだけれど、一周するたびに、初めてその遊びをして興奮しているように笑い声をあげていました。
走り回ったりして、さすがにエネルギーを消費できたのか、子どもも私もクタクタ。早い時間にごはんを食べ、子どもとお風呂も一緒に入り*2、あがってテレビの部屋でフーッとため息をついたら、知らない間に気絶*3していました。
目が覚めたら、横で友だちがニコニコしながら寝ている私をみていて、冷凍庫に入っていたレディボーデンを二人で三つ、子どもと食べたと告白。大人なのでそれほど怒らずに押し付けがましくないように気をつけて許しました。
その後、最近どうしているとか、懐かしい友達の動向について話した後、ひと息おいて、真顔で「百獣合体したいんだけど」と言われました。心臓が一瞬痛くなって、なんと答えたものかと迷いました。私がおかしな顔をしたからか、友だちも焦って、本当の百獣合体じゃない、肩車。そう訂正されて、そうだそう思ってるよこっちもと、変なテンションで百獣合体(肩車)ををして、腰を痛めないように*4立ち上がると、私の背が悪いのか、友だちの頭がかなりの勢いで天井に鈍い音をさせて激突。そして友だちの体重が意外と重かったため、落下に限りなく近い着地となり、言葉すくなく低い温度の大人のケンカとなりました(昔から注意力散漫、考えなし、だからうまくいかないことが多いとか)。

翌朝、目が覚めたとき、子どもが友だちと、私の顔の上にロッドリングや付箋紙、クリップなどをイタズラとして乗せていたため、寝返りと共に血の出ない痛みでスッキリと目が覚めました。背筋にも最近感じたことのないピリッとした刺激あり。
友だちが出かけた午前中は子どもの相手(花への水やりという名目のダム作成、画用紙いっぱいに小さなフナの絵をビッシリと描く、ライトに病んだ感じのお絵かき)をして、午後に外で合流して駅まで送りました。別れる時に、子どもがグズって、もっと遊びたいと言ってくれたのがほんとうにうれしかったです。明日になってすっかり忘れてしまったとしても。

静かな部屋でふと思ったことは、本当の百獣合体というのは、ロボットが集まって大きなものになることだということです(たぶん)。

*1:いまいち聞き取れなかった

*2:おもちゃがないことに不満タラタラ

*3:一瞬で寝ること

*4:自己流で、腰を痛めないように重いものを持つとき背中をのばすようにするもの・・・