犬がブルブルとしていた

風が強く、雲を遠くに吹き流していたからか、太陽がさんさんと照っている天気のよい午後、目的地からかなり離れた場所に駐車したので、春の太陽を額や背中に感じながら歩きました。
それにしても暑い。*1じっとりと汗をかくなと感じたのですが、それもそのはず。今年度になって、私はまだ衣替えをしていない事に気づきました。眠る時、毛布は上下両方。家でいちばん分厚い羽毛布団を相変わらず使い、石油ファンヒーターとエアコンもバリバリ現役のまま。道ですれ違う人の服装もすっかり薄着になっていて、すこし取り残された気分になり、自然に「こんなに暑いなんて、今年は暖冬だな」と、すっかり桜が散ったのに、そんなことを感じた自分に違和感を覚えました。

駐車場から歩いている途中、通りかかった道沿いにあった家の庭で、白いムクムクした犬が家の中に向かい「ンフー」とうれしそうな声を出し、お尻を高く上げ、口をハアハア開きながら尻尾を勢いよく振っていました。私はそれを見て、以前に犬を飼っていたことがあるのため、「あ、家の中で散歩の気配を感じたか、おやつがもらえる雰囲気がしたので、犬特有の感覚で敏感に感じ取ったんだ」と分かりました。それで、今はどちらなのか知りたくなり、その家の前で牛歩戦術で飼い主が家の中から出てくるのを不自然ながらもなるべく怪しくないように見守りました。

飼い主が裏の方から犬の前に姿を現すと「ンフーフッフー」となんとも切ない声を出しながら後ろ足と結わえられた首ひもによってできる三角形の形を作り前足を空中に投げ出し「行こう行こう」と喜びを表現して、散歩用リードに付け替えてもらいたいのにうれしさのあまり付け替えを妨害してしまうというジレンマに陥っていました。
私はそんな犬の姿を見て、ちょっといい気分になれました。



訪問した先で仕事の話が一段落した時、「今日は風が強いですね」「もう春ですね」という話題と一緒に、この場所に来る途中で犬が散歩の喜びを全力で表現していたという話をしました。その説明をしているときに、「犬がうれしくてたまらずにブルブルっとしていた」という言葉を私が使うと、相手の方は「?」という感じの表情をされたので、私は「ブルブルっていうのはちょっと言葉が足りない。嬉しいときに犬が首を振るやつです」と、すこし首をブルブルと振る様子をジェスチャーをまじえて表現すると、真顔で「ああ、ブルブルですね、やるやる」と分かってもらえました。

その後、他の人と打ち合わせをして、そろそろ帰ろうと思い、もらった資料を百均で買った大きなバインダーにとりあえずといった感じで挟んでいると、先ほど、私がブルブルという言葉の説明をした人が、すこし離れた場所から、こちらに向かって、クツクツおかしくて仕方がないといった企んだ笑い顔でブルブルと首を振るジェスチャーを無言でしていました。


暖かい、とてもいい春の日でした。



言葉では分かりづらいかもしれないと、「ブルブルする犬」をGIFアニメーションで表現しようと作成してみました。もっとスピードの速い、水に濡れた犬や猫が、うれしさのあまり舌を出したままブルブルっとなにかを振り払うかのような、喜びのあまりするあれです。ニュアンスが伝わるといいなと思います。

*1:私は汗をあまりかかない体質なのに