熱プロ2

熱が出ていることを受け入れ、いまからの対処法を考えたりしているんだと自分で自分を偽りながら、ベッドメイクしたり着替えたりするのを先延ばしにしてソファーに横になる。早めに病院に行った方がいいのは分かっているけれど、そんな気力があったらとっくに熱は引いているんだよ!と、どこに向かっているのか分からないいらだちを独り言として胸の中に吐き出した。
ぐったりして(10分経過)
ぐったりして(10分経過)
さすがにこのままではまずいと、薄手のTシャツを下に、そして厚手のスウェットの上下を着込み、靴下をはき、タオルを「今からジョギングに行ってきます」といったような状態(首の周りを一周させて、先っぽをスウェットの首の中につっこんだ)にする。羽毛布団と毛布の上下、枕元にはポカリスウェットとハンドタオル、ティッシュがそろえて置いてある。とりあえずはこれで一勝負するかと、まず飲みたくもないポカリスウェットを、意を決してグビグビと喉を鳴らしてコップ一杯分ぐらい飲み干した。飲み干しながらお腹のあたりで微妙な海の生き物が鳴くような音がしたが、聞かなかったと自分に言い聞かせた。何事も体調が悪いときはいいように考えた方がいいような気がするから。

布団の中は暑い。当然真冬仕様の寝装寝具の組み合わせなのでそれは当然だ。息が苦しくなったら、水の中から空気を求めて顔だけ出すように、掛け布団の隙間から新鮮な空気を吸う。しかし、この時点で汗をかき始めているにもかかわらず、足元及び腰のあたりには尋常じゃない寒気が襲ってきた。これは布団の中で汗をかいてなんとかなるレベルじゃないなとはうすうすわかってはいるものの、とりあえず始めた試みをやめるのもしゃくなので震えながら一時間ほどがんばり、汗を拭こうと布団からいったん外に出たら、体中に鳥肌が立っていた。ヒィ……

熱の気配を認めてから二時間半ほど経過した時点で、「これは病院に行っておいた方がいい」という結論が渋々ながら自分の中で出された。震えてくるし、なにしろ目の前の世界がしつこくモノトーンのままで、足元がフラフラして力が入らない。しかたがないので病院に行こうと、タクシーを呼んだ。保険証診察券財布財布……と思っているうちにタクシーが到着。タクシーの配車のスムーズさがすこし憎く感じられた。タクシーに乗り込み、しんどいのに「近距離ですみません、熱で歩けなくて……」となぜか言い訳、荒い息を熱のためにしているのだけれど、なぜか「わざとらしくアピールしていると思われたら嫌だな」と我慢気味。自分で自分のことがよく分からなくなる。熱で頭が働かないというのはやっぱりあるなと実感する。

病院に着いたら人がわんさか。いつも行く病院なので、なにひとつ無駄な動きをせずに待合室で座る段までスムーズにいった。そこで診察の前に問診票を記入。体温計を脇に挟みながら、熱がある、喉が痛い、既往歴あり、服用薬、アレルギーなどを書き込むと、ピピッと音が鳴り、体温計が測温完了のお知らせ。しぶしぶそれを見ると、39.8度。見た瞬間に体が30%程度重たく感じ始め、柱にもたれることができる横がけの背の低いツルツルのソファーでぐったりし始める。体の部分がなるべく多く物に接していると楽になるような気持ちになり、そのミッションをこなそうと、粘土人間のような動きになる。かなり気が遠くなってくる。病院の待合室の中はなんだかひんやりと暗い。

待合室で、となりに座っている男の子がしくしくしくしく泣いていた。真っ赤な顔でおでこには冷えピタシートを貼り、脇にはリュックサック。泣き声で「おかあさん、熱が下がったら遠足行っていいよね」とごねていて、おかあさんは最初やさしくたしなめていたけれど、何度も繰り返されるうちに我慢の限界がきたのか、「二度と病院から出られなくなり、いつまでも遠足に行けないようになるよ!」と低い声でまるで呪いのような言葉を子どもに放ち、半泣きで沈黙させることに成功していた。

熱にたいして熱っぽく書き続ける自分のことがよく分からないけれど、熱について語りたい…… つづく