うめぼし食べたい

朝ご飯の最後に、いつも梅干しを食べていた。一緒に食べているおじいさんが梅干しを本当は嫌いだと打ち明けてくれた。二人の秘密だ。
おばあさんはいつも、おじいさんによかれと思って「梅干しは体にいいんですよ」と何度となく繰り返された言葉を口にする。
僕はそれをすこしばかばかしく思う。
ある日、まだ眠たいのに起こされて、気持ちがくさくさしていたので僕は腹を立て、「おじいさんは梅干しがずっと嫌いなのに無理して食べてるんだ」と教えてしまう。
おばあさんはちいさなこえで「そうなの」とだけ答え、部屋に戻ってしまう。
家の中のいつもある朝の音がない。僕はひとり、自分の部屋で耳を澄ます。二人が離婚したらどうしようかと不安になる(おじいさんとおばあさんはしょっちゅう別れるの別れないのでもめていて、僕の両親が仲裁に入っていた)。

次の日の朝、いつもより早く目が覚めた。台所からはいつもどおりの朝ご飯の音がして胸のつかえがすこし取れた。
起きたら謝ろうと思っていたのに、おじいさんの方から「一緒になったばっかりの時に、俺がばあさんの梅干しをおいしいおいしいと食べたのがいけなかったんや」と先回りして言われてしまったので僕は言う言葉をなくす。
僕は違うと言いたかった。いまではすこしその時の人の気持ちも分かったような気がするけれど、何が正解かはまだわからない。