奥さんの入院

私は、寒い部屋でパソコンのキーボードに向かっている。パソコンの乗っている机の上は乱雑で、お茶や飲み干したお酒の缶を潰したもの、未開封の書類などで埋め尽くされている。
傍らにはメモとプリントアウトされた申請書が並んでおり、そこには入院する際に必要になりそうなものを書き出している。

奥さんが入院する。部屋の中では夜中にも関わらず、すこしバカな犬がリンゴをかじっていて、エアコンをつけてはいるがまだすこし肌寒い。別段何が起こったわけでもないような、普段とまるで変わらない状況である。

すこし前に雪がこの地方(三重県北部)にしてはどかっと降ってキリッとした寒さが訪れた後に徐々に春に向かっているような空気に変わってきている。いつもならばこの季節はなんだかよく分からないが嬉しい予感を感じる季節である。

西に望む山の頂上付近には雪が目につくが、カカさんが住んでいる場所(長野県)に比べればなんてことはないささやかなものだろうなとふと思う。

どこでこんがらがってこんな事になってしまったのかと自問する。答えは出ないし、誰が悪いとか考えても意味はなく、前進するために何をすべきかをシンプルに考えて一つずつ実践していくしかないとは理解している。

奥さんの母親に今はこういう状況で(奥さんが恒常的に鬱状態にあり幻聴が聞こえてきてしまい混乱した状態が続いている)と話し、ひとつの手として入院してもらうことを考えていると伝え、遠く離れて力になれないことが寂しいし、あの子のことがかわいそうでどうしても泣けてくると電話口で涙され、本当に義理の親不孝をしていると感じている。

私の後ろでは犬がリンゴを相変わらずシャリシャリと、とぼけた顔でかじっている。

入院して離れてしまうのが寂しいし、なにもできなくなるし猫たちと離れるのも不安だと奥さんは言う。飼っている何匹もの蛇たちの世話と猫の世話、それと朝晩の犬の散歩(片足を上げながらウンチをして全力で走り続けようとするばか散歩)をしなければならない。私も奥さんをカオス状態にある人々が集う病院に預けるのは寂しいし心配である。それでも今のところ打つ手がそれぐらいしか考えられないほど、状況はじりじりと悪化していっている。

すこしずつでも良くなればいいなと考えながら、別段こんな事を文章にしなくてもいいと思いながらタイピングを終える。自分の力ではどうしようもないところまでやってきたので、もしよければささやかな幸運を祈ってください。

犬は呑気に丸いリンゴを工夫しながらかじっている。短い前足でよくもまあ上手に押さえるものだと感心する。