まさし

日曜日の午後、遅い時間に体が空きました。暇つぶしにお店でもブラブラ見てまわろうかと考え、風が強い中、肩をすくめながら大股で街に繰り出しました。
日曜日ということもあり、街はたくさんの人たちでいっぱいです。みんなみんな楽しそうみんなみんないい顔してる。さて、どこに行こうかと私は駅の真ん前にあるロータリー脇、鉄橋の下でハトが羽毛を逆立て、一生懸命暖を取ろうと身を寄せあっているのを震えながら眺め、考えていました。ハートウォーミングな光景です。
私はひとりぼっちだったので、「ハトはいいな。貧しいながらも楽しい家族だな」と感じながら、鞄から食べかけのチップスターを取り出し、ハト害が問題になっている昨今の事情を考慮し、一枚だけを砕いてあげました。ハトが寄ってきてたいそう楽しかったです。すごいお金持ちになった気分。
ハトのマントをまとわんばかりになったのは一瞬だけ。たった一枚だけしかチップスターを出さない私にハトはあっさりと見切りをつけ、結構な数の「グポポッポー」という鳴き声を出しながら、私の周りをテクテク歩くだけになってしまいました。「ハー、どうすっかな」と別段アイデアも浮かばず、寒いしもう帰ろうかと考え始めた私に、昔の兵隊さんみたいな帽子をかぶったおじさんが自転車を押しながら近づいてきました。
いきなり、「ハトにエサやっちゃおこられっぞ!」とかなり強い調子でたしなめられました。私が「チップスターを一枚あげました」と怯えながら答えると、「同情するなら金をくれ」と全く笑えない冗談を言い、ひとりでで「グッバグッバ」と笑っていました。その後も何ごとか話しかけてくれたのですが、正直何といっているのかさっぱり分かりません。なんとなく残りのチップスター(1/2程度の残量)をくれといわれたまま渡し、お礼にと謎の演歌を歌ってもらうと、おじさんは「今夜はいろいろと予約があるから」と去っていきましたが、その後ろ姿が忘れられません。おじさんが去った直後に人の良さそうなおばさんが駆け寄ってきて、「大丈夫?なにかされなかった!」と鬼気迫る表情で心配してくれました。心配だったらおじさんがいる時に来て欲しかったです。
おじさんの愛車(自転車)はなぜか六段変則式の古い自転車で、ドロップハンドルの部分に携帯ラジオがかけてありました。流れていたのは懐メロ「神田川」。後ろの車輪の両側にはカゴが据え付けてあり、謎の液体の入った瓶数十本とビニールシート、あとは弦のないバイオリン(弓もなさそうでした)が放り込まれていました。電車に揺られながら、いつかあのおじさんはさだまさしのようにバイオリンを弾くのかも知れないと想像し、よくよく考えたらお店を一軒も巡っていないことに気づきました。なにも起こらなかった日曜日。今日の一日を総括すると『仕事・ハト・おじさん・寒かった』しかないことに気づきましたが、なにもない一日を報告するのも一興と記述しています。

注)「神田川」は南こうせつかぐや姫のヒット曲
   ハト害についての対策に反対する気持ちはありません