記録しようそうしよう

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25時/デイヴィッドベニオフ/

25時 (新潮文庫)

25時 (新潮文庫)

最近読んだ中で、一番良かった本でした。楽しみ(笑うという意味で)としては読めませんが、本当に読んでよかったと思う本。
醜い犬を飼う、美しい顔をした悪党モンティ。人から好かれ、うまくやってきたはずなのに、誰かにはめられ、明日になれば刑務所に行かねばならない身となってしまいます。昔からの友達が、せめて最後の夜をと集まって過ごすけれど、モンティ対して抱く友情の気持ちと、「どうしてギャングを辞めさせなかったんだろう」という自責の念で複雑な思いをみんなが感じています。
モンティの心象風景を描かずに、周りの登場人物が感じる心の動きを、短い描写で書いている表現方法がすばらしい。会社でプレッシャーに押しつぶされそうになる友達。かなり年下の少女にぶざまに振り回される男、モンティをうらやみながらも利用する男、深く知りながらも悪く、力のあるモンティだからこそ愛した女、息子に対して何もいえなかった父親。
主人公の内面をわざと描かずに、第三者のさまざまな意見を描き、読者がモンティに対する印象をそれぞれに持つことができるという点で、白夜行の主人公に対する描き方と似ているような気がしました。
透徹で感情的でコンパクトな物語、ラストはいきなりパッと幕を降ろされるような鮮やかさ。田口俊樹さんの訳もとてもいい。
スリーパーズ」のロレンゾが好きな人だったらしっくりくるのかも。

パパの探し物/ジョン・オファーレル/

パパのさがしもの

パパのさがしもの

大人になりきれない大人が「ちょっとづつわかってくる」物語。自分なりにがんばっているという気持ちだけではうまくいかないということ、無理せずに、ゆっくりと受け入れることを描いています。

センセイの鞄/川上弘美/

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)

クセのある日本語で、淡々とした日常と、年齢の離れた微妙な温度のセンセイとの関係を描いていました。読み終えて、なにかいいものを読んだ気がしましたが、なにかがさっぱりわかりません。会社で隣に座っている人のリアルな生活を知ったような気分に似ています。好きな感じでした。

パレード/川上弘美/

パレード

パレード

センセイの鞄が予想以上に良かったので、その後日譚のようなこの本を読みました。話が面白くなくてびっくりしましたが*1センセイの鞄の中にある世界の空気のようなものを味わえます。映画や本などを楽しんでいて、「ああ、もう終わってしまうのか。もうすこし楽しみたかったのに」と思いながら読むスピードを緩めたりして工夫しながら願ったことが叶えられているからいかもしれません。つまらなかったけれど、この空気感はすばらしいので、これでいいんだと思えました。下手に後につなげて面白そうにすると「もっと、もっと」と感じてしまう事を避けられます。


おめでとう/川上弘美/

おめでとう (新潮文庫)

おめでとう (新潮文庫)

パレードがあまりにひどかった(つまらなかったので)「ヘイヘイ、バッチこいよ!そんなもんじゃないだろヘイ!」という気持ちを込めて読んでみました。結果はツーベース。センセイの鞄に似た、フワフワしてそうなのにやけにリアルな心の動きがあるような短編が詰まっていました。「やるせなくて、うまくいかないけれどまあいいか」というのが川上弘美さんの良さなのかもしれません。

夜のピクニック/恩田陸/

夜のピクニック

夜のピクニック

なにかどこかで見たような、見ていないような話でした。学校のイベントで、みんな揃ってひたすら歩くもの。私の経験上にそんな行事はなかったものの、やる気なく参加したマラソン大会や夏の遠泳などで、ドラマチックではないものの、似たような場面がありました。それに加えてちょっと切なく複雑なエピソードがあって、経験していないのに懐かしく感じることのできる、とてもいい装置だなと思います。


上と外/恩田陸/

上と外

上と外

夜のピクニックが良かったので、恩田陸さんのSF系の作品をいくつか読みましたが、あんまりでした。でもすぐに諦めなくて正解だったのは、この本に当たったからです。別居している父親が研究のため、赴任している南アメリカの国を訪れた兄と妹。アクシデントに巻き込まれ、命をかけて石造りの地下回廊のなかで行われる成人の儀式に参加することになる……と書き出してみて、メチャクチャな話だと気づきました。同時にクーデターや、行方不明になった兄妹を捜索する両親、迫りくる火山の噴火など、過剰なぐらいの出来事……
しかし、読んでいる間はそんな事を感じさせないぐらいに没入できます。暗く、湿った石造りの回廊、姿は見えないが、自分を付けねらう猛獣の影。「だめだだめだ逃げろ逃げろ」と子供の頃、アニメを見て、登場人物たちに教えてあげたかった気持ちを思い出せます。

人のセックスを笑うな/山崎ナオコーラ/

人のセックスを笑うな

人のセックスを笑うな

作者の名前にある「ナオコーラ」という部分を目にして、いつもなにか言いようのない違和感を感じていました。イライラさせられるような……。ひどいに違いない、きっと大きな字で印刷され、改行ばっかりで面白くないだろうという先入観をしっかりと持って、自分へのチャレンジとして読みました。
予想はある意味、バッチリ当たりました。字が大きくて、内容はライト。
しかし「ナオコーラ」という名前から想像していたよりは悪くない…でも…面白いかといわれれば笑顔で「ノー」と天才クイズの博士の声で答えられます。でも、つまらないというわけではないという点がすごいのではないでしょうか。三丁目に住んでいる西沢さん家のお兄ちゃんは、見かけが悪くて「コーラ洗浄のニシ」と呼ばれていたのに、自動車学校で顔をあわせ、実際に話をしてみると拍子抜けするほど真っ当な事しか話さずに、なにか裏切られた気がするのに似ています。例えが非常にわかりづらいですが。「悪くない」というのが大勝利なのか、それともいっそつまらなかったほうがいいのか考えさせられるいい機会になりました。ありがとうナオコーラ。

エリザベス・ストーン/僕はここにいる/

僕はここにいる

僕はここにいる

女教師の元に、かつて担任をしていた年に一回カードを送ってくるだけの関係の少年から日記が届けられた。そこには少年が死ぬまでの生活が克明に綴られた内容が書かれている。どうして自分に送られてきたのか、伝えたいものは何だったのか、教師は追い始める…
とても静かなテンションで地の文が綴られています。日記を託された教師の日常と心の動きをすこしだけ挟みながら、ホモセクシュアルである少年の葛藤、弱さ、世間とうまく折り合えない行動が描かれています。痛い。とにかく痛い。少年の意図がどうだったのか、さっぱり分からないまま。モヤモヤとした暗い気持ちになりたいときにはぴったりかも……

家族狩り/天道荒太/幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)detail
シロアリ退治に関する情報ならピカイチかもしれません。話としては長いけれど興味を持って読めました。心に負った傷とか……そんな風に書かれてもな……と……こんな感じで…を多用してしまう感じです。
とにかくシロアリ駆除と、暗いところでじっとする感じです。こんな感想、書かないほうがいいかなとも思いました。でも、シロアリぐらいしか記憶にない…

シロアリ駆除+ミステリー+心の傷ものとして捉えるといいバランスだと思ったのですが、こんなにシロアリ駆除(ここまでシロアリという文字を六回使用)について書いたら、とても気に入っている人は腹を立てるかもしれないと考えました。私は悲しい話としてもちゃんと読んで、魂の再生について考えたりもしました。


続・戦国自衛隊/

続戦国自衛隊(1)関ヶ原死闘編

続戦国自衛隊(1)関ヶ原死闘編

この本と出会ったおかげで「もしもシリーズ」で書店の一コーナーができるほどだということが分かりました。面白い…!一度、書店で新書コーナーのあたりをぐるっと見てみると面白いです。
大まかに言うと、過去に行き、歴史の流れを知った人間もしくは強力な兵器を持って歴史を塗り替えるという設定だったら大体面白くなるようです。戦国時代・新鮮組・太平洋戦争・源平合戦……

南方熊楠全集1〜3/

南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇

南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇

※書影は違うもの
読む必要があったため、しぶしぶ読み出した本でしたが、予想以上に面白い!虎について書かれた論文を例にひくと、各国での名前の呼び方、言い伝えられていた生態、実際の報告文などをからめて、読みやすく面白い情報にまとめられています。手書きのものをそのまま見ることができるのですが、簡単なイラストと英文、恐ろしいまでの情報量で楽しめます。でも、よくよく考えると私にとってはなにも有益な情報ではないので身を入れては読めませんでしたが。仕事でなく、楽しみで熊楠の本を読むという人は、天才の思考を追って楽しむのかなと考えましたが、よくわかりません。

神が書かせた思い出・全盲女性のアメリカ留学/大空社
タイトル通り、全盲の女性が古い時代に船でアメリカに留学した時の日記。キリスト教系の福祉団体に属していたため、「神が書かせた」というタイトルになっていますが、宗教っぽさはそれほどなく、単純で素朴な感想が書かれた日記。
渡航する前日の緊張、船旅でのあたらしい発見。まるでその場所に自分がいるかのように感じられる文章で、全盲の方にそぐわないな言葉なのですが、いきいきと目に見えてくるような描写でした。


ここに記してみた本は、読んでみて面白かったと思える本ばかりです。本当につまらなかった本については書いてありません。

日本むかし話について、あんまり同意してくれる人がいなくてとてもガッカリしました。チャングムと変わらないぐらい視聴率はあるはずだし、みんな好きだと思うのですが、どうしてなのでしょうか。本気で大人が見てもしっかりと楽しめるいいものだと思っているのですが。水曜日の夜、6時55分からです。一回見たら、きっと気に入ります。本気で見たら面白いのに……


味わい深い話をひとつどうぞ。
http://www.digital-lib.nttdocomo.co.jp/kikakuten/mukashi/mukashi3/soramame.html

*1:素で「あれ、どうしちゃったのだろうと思うほど