試合なんか負けてしまえ

年末年始、休日は一日もなかったけれど、仕事を終わってから、レコーダーに録っていた高校サッカーを見ることを楽しみにしていました。
以前はサッカーマガジンという専門誌が特集した、出場する高校のフォーメーションや注目選手などを掲載した号を、十二月中からチェックしてお風呂の中で読み返し、実際の試合を見るよりも楽しんでいたほどだったのですが、今年はあまり体力的にも気持ち的にも余裕がなかったため、あれ?もうサッカーの時期か……と。
私は、津工業(つうこうぎょう)という、地方の工業高校でそれほどパッとしない地味なチームに注目していました。津工業の所属する三重県では、若年層のめぼしい選手は、中学校を卒業するとジュビロ磐田のユースや、四日市中央工業などに進路を決めることが多い土地柄ということもあり、私の好きな背の高い選手(電柱のようにゴールの前でノソノソしている選手)も特に見あたらず、小粒な選手が短いパスをパンパン繋いでいく、いっけん地味なサッカーをしていました。


なんとも小粒だな……と、選手権に出場するチームを決定する、県大会の決勝戦(VS四日市中央工業)を見た時に思ったのですが、明らかに体格で負けているにもかかわらず、四日市中央工業フォワードにゴリゴリ攻め込まれても、極端に下がって守ることをせず、とにかく危ないから前に蹴り出してもおかしくないな蹴り出しても誰も責めないから手ひどい失敗をする前に蹴った方がいいんじゃないか蹴らないといけないよ今は蹴るべき時だろ……と、テレビの前のこちらが苛立ちを感じるぐらいにピンチでも、自分の近くにいる味方に短いパスを繋いで、すこしずつすこしずつ敵のゴールに向けて前進していました。


驚くほど上手な選手も見あたらず、そこそこ俊足の選手が三人ほど。キーパーも170センチそこそこ(ゴールキーパーの平均よりはかなり小さい)。ボールを足元に置いている時、周りをキッチリ確認していなくて後ろからボールをかっさらわれたりする事数度。明らかにあんまり強いチームではないのだけれど、キーパーから守備、中盤、最前列と短いパスをきっちりと出して、出した後にススッと前に出て行くことを徹底していて、そんなチームの様子というか、戦術がちょっとずつ分かってきたら、なんとなく嬉しくなってきて、あんまり効果的でないバックパスを何度も繰り返すのを見ていても、不思議と痛快な気分になって笑えてきました。


確かにパスを繋いでいる間は攻撃されないし、パスを繋いでいるっていうことは、その間はゴールを奪える可能性を持ち続けている。前の方にドーンと蹴り出したら、あんまり体格の良くない自分の味方と敵の屈強なディフェンダーが競り合うから、結局、敵のボールになってしまうから得策じゃないしな…… とにかく繋いでいこうっていう考え方は最高だなとノリノリになり、勝手に色んなことを想像して、特徴がないな、このチームにはあんまり乗れないなと思っていた自分のことはすっかり忘れ、「エースがいない?だがそれがいい」「特徴がない?だがそれがいい」「守備が弱い?だがそれがいいとワクワクしながら観戦していました。


私はサッカーが好きで、好きなチームにいつも勝ってもらいたいと願っていますが、残念ながら心酔しているようなチームを持っていないので、どんな形でもいい、勝って欲しい……という気持ちにはあまりなることがありません*1。わかりやすい戦術(守備を思いっきり固めてドッカンドッカン前に蹴る/ドリブラーを左右に据えてサイドアタック一辺倒)を貫くチームを眺めているのが最高に楽しいのです。


好きなチームには勝ってほしいのですが、破綻しかけの作戦を貫いて大失敗するような、「倒れるなら前のめり」も大好物です。そんな私にとって、「地方の公立高校」「ちびっ子ばっかり」「とにかくボールを繋ぐ」「キーパーが170?台」「ディフェンダーが前で勝負する」「地方大会でたっぷり失点」もう最高……!


そんな津工業は、誰もが勝ち上がると思っていない試合を次々に勝ち、破綻が発生するはずなのになんとかそこをボールを繋いで繋いですり抜けて、優勝候補の大本命、千葉の流通経済大柏と対戦して、中盤でかなりシビアに守備をされ、何度もボールを奪われながらも、後ろに下がらずにボールをつなごうとし続け、その度にボールを奪われ、ジリジリとみんなが後ろに下がりそうなところでまた繋ごうとして奪われゴールを決められ、ちょっと見たことがないほどに爽快にやられてしまいました。
試合が始まってすこしの時間しか経っていない状態で、「ああこれはダメだちょっと相手が違う……」というのが如実にわかりました。それでも前半はなんとか0-1でこらえることができましたが、後半なんとかなりそうな感じは全くありません。後半に入り、浅い時間で追加点を奪われると、そこからはちょっとした虐殺ショーのような形になり、津工業がやりたいと思われるようなボールをあっちこっちに動かすサッカーを流通経済大柏にされ、最終的に0-6で負けてしまいましたが、面白かった……


津工業の選手は二年生が多いので、来年のチームも相当に楽しみです。とにかくチョコチョコ繋いで、倒れる時は前のめりサッカーが継続されると、とてもうれしいです。
普通の選手が、前を向いてボールを繋ごうとリスク承知でやるサッカー、なかなかできるもんじゃないなと思いました。とにかく面白かった。極論をいうと、試合なんか負けてもいいからとにかくボールを繋いで攻撃してほしい!


唐突に長いサッカーの感想を書いてみました。面白かった!

*1:ワールドカップの試合や、ジャイアントキリングを達成できそうな場面では別