強運どんちゃん 〜ベルツノガエル 拒食〜

ペパーミント ベルツノカエル

唐突ですが、カエルが家にやってきました。『子猫はじめました』的なかわいい響きが全くないのが残念で、両生類全般に対して拒否感を持たれる人も多いとは思いますが、今日からすこしだけカエルのことを見直してみてはいかがでしょうか。(こっち側においでとの呼びかけです)


ある日、ペットショップの片隅で500円玉ぐらい*1のかわいいカエルが、小さなプラケースのなかでちんまりと座っているのを見つけ、連れて帰ってきました。新しい仲間、私の気のいい部下を家族に加えたような気持ちです。
ベルツノという名前の由来は動物学者トーマス・ベル氏が由来。ベルさんが見つけた角のあるカエル。足の指が長く、水かきはほとんど退化して使われません。英語圏ではパックマン・フロッグと呼ばれ、ナムコのゲーム、パックマンのように大きな口を開けてエサをパクッと食べます。


名前は見た感じで「どんちゃん」。ベルツノの性質/性格はとにかくよくご飯を食べ、あげたらあげるだけ食べてしまい、そのまま調子に乗ってあげすぎると食べ過ぎて破裂して死んでしまうという、絶望的な性格のカエルです。
とにかく大きければ大きいほどいいという、普通の動物では考えられない基準で飼われているカエル。最終的には超特大の大福みたいになる予定です。

なんとなく、オバケのQ太郎のようです。遊びに来ておひつが空になるぐらいに食べる、どん底にアホな突き抜けた感じがいいな…… 素直で一緒にいると楽しんだけど、でもあいつ…… いや、悪気はないんだよな…… ウン。と思う感じの友達っぽいなと思いました。
他に飼っている動物たちが残したエサを気持ちよくパクパク食べて欲しいという気持ちもあって期待していたのですが……


ベルツノガエル
学 名:Ceratophrys ornata
別 名:ベルツノガエル
英 名:Argentinian Horned Frog, Ornate Horn frog, Pac Man Frog
分 布:アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル南東部
餌 小さいときは昆虫を中心に。大きくなったら週に2回ほどピンクマウスや金魚などを与える。


初めてベルツノカエルを飼ってみて、今までぼんやり考えていたカエル飼育法とはずいぶん違うことに気づかされました。まず、飼うのに、基本的にはちいさなプラケースにほんのすこし水を張るだけです。これでいいのかな?と不安になるぐらいになにもない方が最初はいいようです。

ベルツノが実際に自然のなかで住んでいる環境を模した水槽を作るのもいいな……と思いましたが、まず慣れるまではシンプルな環境で生活をさせることになりました。
ベルツノは泳ぎが苦手というか、オタマジャクシ期を過ぎると泳がなくなり、水を張りすぎると水圧でご飯の食いが悪くなり、水が多すぎるとおぼれて死んでしまう……そんなバカなと衝撃を受ける事実。『本種は全く泳げない』と書かれていました。

つけた名前の「どんちゃん」がとてもしっくりきてしまう感じ。さあ、これから毎日コオロギとかミルワームとかをバクバク食べてくれよよろしくな……と挨拶。

エサをあげるのは、生き物に関して根気強くやさしく接することのできる千石先生並みの能力を持ったスペシャリスト。どんちゃんにやさしく声をかけながら*2

一日目 …… 到着当日なので食べさせませんでした
二日目 …… コオロギを目の前でチラチラさせたけれど食べませんでした
三日目 …… ミルワームもコオロギも食べませんでした

このあたりで「どんちゃん、おかしい……貪欲なはずのベルツノなのにおかしい……」と心配になりはじめ、飼育の仕方に問題がないか検討を始めました。ググって見つけた解決策として、小さいカエルは獲物を仕留める力がまだまだないため、速いコオロギの動きについていけていないのではないかという可能性があるのではないかと思い、ごめんな…… と思いながら、エサとして準備したコオロギの後ろ脚を外してやり、根気よく目の前でチラチラと動かしてみたりしますが、食べません。目の前に自分の獲物であるコオロギをブーラブラ、ブーラブラ、よたよた歩き回ったり。
どんちゃんはコオロギの触覚が顔に当たって嫌なのか、右手で顔をかきながらイヤイヤをする仕草をみせます。どんちゃんの野性の力って…… 都会のもやしっ子*3だからかも。


もしかして環境がよくないからなのかも……と心配になり、水苔をホームセンター・コーナン南津守で購入(たっぷりの量で300円)、その中へどんちゃんに入ってもらいました。以前の殺風景などんちゃんケージから比べると、ちょっとした箱庭感溢れる感じに変貌したのですが、別段気持ちよさそうにも悪そうにも見えず、ケージの隅っこで拗ねたみたいにちんまり座っているだけで、入れておいたらそのうち食べるかもしれないと思って入れたコオロギが、湿っていない場所だからかどんちゃんの頭の上で静かに休んでいるのを目にして、すこしドンヨリした気持ちで笑いました。


気持ちよくご飯をバクバク食べてくれることを期待したのに、まったく食べずに心配するという、まるで我々の神経質さをそのまま投射したみたいなどんちゃんに対して、もどかしい気持ちと私のカエルだからやっぱりこんな感じ。しかたないか……という気持ちとあきらめとがごちゃ混ぜになった気分。


四日目 …… このあたりで、これは経験者に訊いた方が確実・安心だし、今後分からないことが出てくるかもしれないので訊いてみようと、クマハチさんケラさんに質問する事にしました。とてもきちんと丁寧に教えてくれて、本当に助かりました+うれしかったです。

今後のための記録として、カエル先生・ケラさんに教わったことをここに記録しておきます。

どんちゃんの食欲不振について

  • 考えられるのは1、お腹が空いていない。2、(着たばかりならば)移送のストレス。3、環境が合っていない。4、あげかたがよくない。等だと思われます。食べるときはピンセットにでも食いつくので餌の種類による嗜好性はあまり無いように感じます。
  • 環境に関しては温度と新鮮な水が必須です。温度は今の時期なら問題ないとは思いますが、計ってみて低いようならばピタリ適温などのパネルヒーターで25度前後に保つと調子が上がります。カルキ抜きした水を5〜10mmほどの深さにしておくとよいようです。
  • こちらのページの一番下にある飼育法が参考になるかと思います。ベビーの拒食は心配ですが、無事食べてくれることを祈っています。

ここで教えてもらった「ニュアンス」のホームページにある写真はとてもわかりやすくて本当に助かりました。

通常は画像のようにプラケースで飼育します。マットを敷くと滑らず個体も安定するので、できればマットを敷いて飼育してください。

水深の深さ
良い例
 悪い例
水位はこのくらいがベストです。

上にある水位はこのぐらいがベストですという画像であっと驚きました。水位を5mm程度と思っていたのですが、どんちゃんはほんとうに小さな赤ちゃんなので、口の端まで水に浸かっている状態でした。小さくて水位の調整が難しいので、ニュアンスのページにあったように、水槽の底に、ホームセンターコーナンで買った、魚を飼う水槽の中に入れる濾過材(ただの綿)を買ってきてカッターで切り、敷きました。値段は210円で、どんちゃんの小さな水槽だったら、20枚分ぐらいありました。

そして、今から夏だけれど、念のために暖かくしてやろうと「ピタリ適温」を購入。お腹をあたためてあげれば、消化不良を起こしにくいし、エサ食いが良くなるということなので、どんちゃんのために。

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そして五日目、エサをピンクマウスに変更、すこしマウスに傷をつけ、どんちゃんの食欲をそそる匂いを出してやり、粘って粘って何十分もどんちゃんの鼻先でブーラブラ。どんちゃんの口のまわりにも血のにおいをつけて何十分。ピンクマウスを食べてくれました!
どれだけホッとしたことか。女千石先生の尽力により、どんちゃんがようやく生きる力を発揮!




しかし、六日目遅く、食べたピンクマウスを半分吐き出してしまいました。半分は消化しているので、栄養は足りているかと思いましたが、今後もこんな感じでどんちゃんが食べなかったり吐き戻したりし続けたら、死んでしまうのではないか。もし死んでしまったら悔やんでも悔やみきれないので、もう衰弱して手を打つことがなにもなくなる前に、ショップに返したほうがどんちゃんのためにいいんじゃないかと思い、翌日に餌を食べてくれなかったら、とてもつらいけれどショップに返すことにしました。一週間ほとんど食べていない


七日目 …… 食べてくれませんでした。残念だけどショップに返すことを決断。ストレスからか、飢え死にみたいなことにだけはしたくありませんでした。 返しに行く道すがら、ジュエリーの紙袋の中にいるどんちゃんの顔をのぞき込みながら「ごめんな……」と思い、トボトボとショップに行き、「どんちゃんを拒食で死なせてしまうよりは返した方がいいと思って」と話をすると、お店の店長さんが「これ、プリプリで太っていますよ 全然大丈夫」とライトに言い放ち、比較対象はないけれど、どんちゃんがやせ細っていると思いこんでいたので驚きました。「こんだけプリプリだったら食べないわ」と言われ、これから先も同じように食べない可能も考え、うーん。太っているっていうのが分かってうれしいけれど。

そんなことを考えていると、店長さんが「あ、今ここにおられる方ベルツノ詳しいですよ」とおっしゃって、メガネをかけたお兄さんを紹介してくれました。お店に自分でブリードした(じぶんで殖やした)カエルなどを委託販売しているお兄さんで、「なかなか食べないんですよ……」と話しかけると、ケージごとどんちゃんを見て、フタを開け、「うん、型はわるくないけど、どうだ?あー。目の下がちょっと落ちくぼんでるかな。それと、目玉が細くなっていますよね。これ元気のない分かりやすい証拠。それでフンフン。お腹のあたり、ガスがたまってるほどでもない。あ、脱皮を終えたとこかな。ちょっと待って。呼吸」そう言って、色々なファンやアクアの音などでうるさい店内で、どんちゃんの方に向かって耳を近づけ、「うん、呼吸はまあいい。うん。小さい個体はなかなか難しいんですよね。僕もこの子と同時期に入荷したベルツノを買ったけど、コオロギを何とかやったけど吐き戻したし。お腹の部分を暖めてやったら消化不良は防げますし、そこまで衰弱していない……大丈夫。たしかにプリッとはしてる」
短時間に弱い機関銃並みのスピードで説明してくれました。床に綿を敷くことなど、これをしておけばいいということや、健康体の見分け方、自分の持っている種親のベルツノの巨大さ、今はブリストルやらんちゅうなどの金魚もやっているなどの話をしてくれ、交流を持つことができ、本当に本当にありがとうとお礼を言いました。


そのカエルを診断してくれたお兄さんが持ち込んで委託していたバジェットガエルを見ていて。「これの値段ってどれぐらいですか?」とお店の人に訊いたら5,800円との答え。どれぐらいなのか……ということが知りたくて訊いたのですが、私たちと店長からすこし離れたところで他の動物を見ていたお兄さんは、私たちに言うでもなく、変な方角に向かって「あ、バジェット、4,000円でいいな。それぐらいでいいな」と急に言い出し、「大事にしてくれるところにいってくれたらうれしいし……」とひとりごとなのか話しかけてくれているのか微妙な感じで言ってくれました。
私たちもなんだか照れくさくうれしい気持ちになって、全然予定していなかったバジェットカエル、連れて帰っちゃおっか……という楽しい気持ちになり、思わず我が仲間に加えてしまいました。
帰る前に、せっかくの繋がりというか、お兄さんの連絡先を聞いておこう、そうしようと思っていたのですが、なんとなくまた店に行った時に聞けばいいや……と帰ってしまいました。


それが21日の話。

 23日午前3時50分ごろ、大阪府守口市橋波西之町2丁目の鉄筋6階建てビルの1階に入るペットショップ「アクアショップODT」付近から出火、同店約100平方メートルが全焼した。この火事でペット約280匹(総額約1千万円相当)が焼け死んだが、けが人はなかった。

 守口市門真市消防組合によると、店の内側がよく燃えており、上の住宅や事務所には延焼しなかった。守口署によると、トカゲ約160匹、ヘビ約100匹と熱帯魚とカメがそれぞれ10匹死んだという。


どんちゃんを連れて帰ってきて、本当によかったし、バジェットガエル(名前はハピハピ)も本当に強運な出会いでした。

不幸中の幸いという言葉は、不幸なんだけれど、その中に幸運があるという部分を見ていくのを大事にしていこうということだと思った。お店の動物、そして店長さん、汗を異常にかきつづけていたでっかいアルバイトの子はどうしているんだろうと心配になりますが、もうどうしようもない……
その後はどうなっているのか、それとカエルのお兄さんとはまたどこかで会えるのか、一寸先は闇だと本当に思います。


22日、どんちゃんは魚を食べました。もう大丈夫。どんちゃんは魚を食べて、目玉が大きくなりました(ひとみの面積が増えるのが元気な状態のサイン)


Bell's horned frog どんちゃん


どんちゃんもいずれ大きくなってこんな具合になるんだろうかと楽しみ半分、不安半分以上のケラさんの飼っているクランウェルツノガエルのグリ


クランウェルツノガエルメタボ化

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いつかどんちゃんの子どもをみんなに届けたいという野望があるので、すこしカエルに興味を持たれた人は(相当長い時間)待っていてください!

*1:ベルツノの大きさを表す時によく使う表現

*2:どんちゃんどん底に知性がない感じですが

*3:どんちゃんはCB(転換社債型新株予約権付社債じゃなくって、Captive Breeeed人工養殖)、反対に自然のものを採集した場合はWC(ワイルド・コウト)