怒りのカエル 


「ああ、また怒っとる」私はその言葉で目を覚まし、ドンと目の前に置かれたプラケースの中でカエルが肌を真っ黒にして丸まっているのを目にしました。普段はそれなりにきれいな緑色の肌をしているカエルなのですが、今では汚れに対し不満と怒りを力いっぱい表現してどす黒い色に変化させています。

新聞の風刺漫画に出てきそうなグレた若者的目つきで恨めしげにどこへともなく視線をやり、壁と床にだらしなくもたれかかっていました。
そんなにわかりやすくマンガみたいな不満を表現をするなんてアピール過剰やん……と思いつつ私は体を起こし、これはちょっとわざとらしすぎるからカメラで撮ってやろう、そしてカエルには掃除するよハイハイごめんなごめん私が悪い……と立ち上がりました。


家雨蛙 Litoria caerulea
のろいの気持ちを最大限に表現中。周りの白い粉はカルシウムパウダーです。


カエルがぐれてしまった原因、彼の家であるプラケースを持ちヨボヨボと台所に移動しながら、私はああ、久しぶりにこんなに眠れてスッキリしてる……と体がいつもより軽く楽だと感じました。

そういえば昨日、いつも眠れずにいる人に向かって「私も付き合って起きてるわ」と言ったのに、その後の記憶が一切ないぐらいにつるべ落としでス*1トンと眠りに落ちたんだ……そして力いっぱいスヤスヤ寝たんだな……とやけに快調な自分の体調さえもちょっと後ろめたいような、なんともやるせないよくわかんない感じでバツが悪くなりました。
誰も無理して起きていてくれと頼んでいないのに、自分で起きていると言い出した瞬間にあっさりと寝てしまうという訳の分からないこんがらがった奇妙なさびしい失敗です。それだったら最初からなにも言わなかったらいいよなぁ誰も責めてないのに分かってはいるんだけどなと思いながら、しぶい顔で黒い色のまま壁にもたれているカエルをプラケースの壁をすこし拭くためにいったん外に出します。



この怒れるカエルはイエアメガエルという名前を持つ、インドネシアからオーストラリア周辺生まれのカエルです。日本に生息しているちいさなアマガエルをそのまま巨大化させ、かわいらしさをサックリと削った感じの気さくな外見をしています。
よくエサを食べ丈夫で安価*2。他のカエルを飼育されたことのあれば、拍子抜けするぐらいに飼育しやすい種類です。
私はこのイエアメガエルを好きなのですが、じっくり観察してみると、やはり見た目はあまりかわいくありません。なんとなくちょっとにくらしい見かけをした、元気な配下っぽい雰囲気を持ち、カエルの全種類を特撮戦闘シリーズの構成員にたとえるならば、黄色カエル的な存在感を持っています。

なにより、他のカエルたちが「ちょっと今日は食欲ないからご飯いらんへんで……」とエサを残しても、イエアメガエルは太っちょの子どものような雰囲気で「うん、オレまだまだ食べれるわ!」と残った料理を皿の上に乗せ、素直な笑顔でパクパクとかぶりつき、食べ残すことがほとんどなく、残りものを無駄にすることがありません。もし、カエルを飼ってみようと思われた人、他の両生類・は虫類を飼われている人にもこの食欲&丈夫さ&適当さは本当におすすめです。



私がイエアメガエルの性質でなによりも愛おしいと感じるのは、肌の色つや、目つきや動きにより、腹を立てているのか、調子が悪いかいいかがシンプルにわかる点です。今どんな気持ちでいるのか、どんな体調なのかが本人の考え(カエルはそんな難しいことは考えることができないですが)に関係なく、誤解せずにわかるのは、相手の調子を知りたい時にとても助かり、間違った対応をしてしまうことが減るのではないでしょうか。
もちろん、体調や気持ちが透けて見えるということはいいことばかりでありませんが、そういう問題をすこし難しく考えそうになるときはいつも「プライバシーは守るもの、だけど秘密*3は暴くもの!!」という言葉を口にした人のことを思い出し、確かにそうだウンウンともっとシンプルに考えようと思います。


人間はイエアメガエルよりずっと表情も言葉もあるのに、大丈夫かと訊かれるとほとんどの場合、大丈夫としか答えることができなかったりします。明らかに大丈夫じゃないから大丈夫かと訊いているのに……どれだけ体がしんどくても、まるでお酒に酔っている人が無理やり不自然にまっすぐ歩こうとするように、普段どおりに行動ができるふりを上手にできてしまうのが人間ですよね……。



イエアメガエルのプラケースの中にある水のみ場兼風呂を洗い、汚れていた場所を簡単に掃除し、ご飯をあげると両手でそれを受け取りムシャムシャと食べ、カエル的なジャンプなど一切せずにノソノソと風呂場に向かいました。
この写真はご飯をあげた直後です。食事をして空腹が満たされると、とたんに肌の色がグッと明るくなり機嫌も急上昇、周りの温度さえ上がりロードショウだったらガンガン続きそうなテンションです。

イエアメガエル


お腹がいっぱいになって風呂場に入ると、いきなり目を細め2.5センチほどもある大きなウンチを水の中でミミミミミと出しました。やっぱりきれいな水の中でするウンチは格別だよね…… といった雰囲気をかもし出しながら。今水換えしたばっかりなのにもう……と思いながらも、またすぐに風呂掃除をすると、よしよしごくろうさんと私に言っているような社長的な動きで後ろ向きでまたお風呂に入り、かなりご満悦な様子でした。

このカエルみたいにシンプルに生きられたらな…… と一瞬思いましたが、風呂に入っているカエルをみているうちに、そうでもないなと我に返りました。


イエアメカエル




はてなダイアリーを利用している方でイエアメガエルを飼っている人、イラストレーターのクマハチさんの飼っているカエルはあまりにきれいな色かつベビーフェイスで、思わずお前も同じ種類なんだよね……あいつはたぶん5000円位するんやで違いはライトとかカメラのせいだよっていってくれ……と目の前で目を閉じお腹いっぱいでウンチをして大満足で風呂に入っているイエアメガエルに詰問したくなるほどに違いがあり衝撃を受けました。


"クマハチさんのカエル、名前はオデール"


さらにそういえば……と気づいたのは、クマハチさんのカエルにはきちんと「オデール」と響きのよい名がつけられているのに、うちのカエルには名前がありません。「吾輩はカエルである名前はまだない」的なユーモアもなんにもなく、ただ名前がないままボンクラな顔で風呂に入っています。


かっこいいオデールの飼い主、クマハチさんの描く両爬虫類のイラストは、他で見かける動物イラストとは一発で違いが分かる個性を持っていて大好きです。
そんなクマハチさんの描きおろしイラストです。クマハチさんのカエルマンガが読めるのは、ここだけ…… 


イエアメガエル




イエアメガエルの体色変化は、体調や汚れだけで変わるものではなく、周りの色彩や光量によっても変化します。

追伸:関西で行われる"ぶりくら"に行かれる人いませんか? コモンカーペットパイソン、ボールじゃないパイソンの赤ちゃんを育てている、もしくは出品するという情報がありましたら、
prof.azakeri@gmail.com (@を小文字に)まで教えていただければ面白い顔で喜び感謝し微妙な動きで表現します。

今年は神戸の三ノ宮で開催されます。
ぶりくら
http://burikura.com/



説明の中に水洗トイレのタンクの中に潜り込むと書かれるって、よっぽど何度も入り込んだところを発見されたんだろうか……


イエアメガエル Litoria caerulea

学名Litoria caerulea (White, 1790) Pelodryas caeruleus Gunther, 1859
和名イエアメガエル 英名Whites tree frog
イエアメガエル(家雨蛙、Litoria caerulea)は、動物界脊索動物門両生綱無尾目アマガエル科に分類されるカエル。別名ホワイトアマガエル。

体長7-12cm。体形は太い。老齢個体は眼上部から体側面の皮膚が垂れ下がり、鼓膜を覆うこともある。体色は黄緑色だが、薄緑色から褐色まで変色させる事ができる。背面には白い斑点が入ることもある。
草原や森林等に生息する。半樹上棲で、樹上にも地表にも生息する。

食性は動物食で、昆虫類や節足動物、ミミズ、両生類、小型爬虫類、小型の鳥類、小型哺乳類等を食べる。貪欲で目の前で動くものには何でも飛びついて捕食する。生息数は多く、人家近くにも生息することが和名の由来。時に水洗トイレのタンクの中に水を求めて潜りこむこともある。
23年の飼育記録がある。

クマハチさんのサイト
http://d.hatena.ne.jp/k_kumahachi/
http://kumahachi.org/

*1:ロウス

*2:980円〜2000円程度で購入できます

*3:このケースは秘密ではないけれど