かえるをたべる

私はカエルが好きで、かわいがって飼っています。それはもう食べちゃいたいぐらいにかわいく……というわけではないのですが、名古屋のカズさんという、気が狂っているんじゃないかと思うほど家に動物をわんさか飼っている痩せぎすの人に「なにかいいテイストの食べるところないですか?」と訊ねたら、さわやかな笑顔と共に教えてもらったのが「かえるが食べられるお店」でした。



カズさんは痩せた「ザ・優男」といった感じの風貌で、「この人ガリガリだな」と思ったのですが、たぶん相手も私を見て同じように感じただろうな……なにかわけもなく味わい深かったです。スティーヴン・キングの小説のタイトルではないですが、私たち二人「痩せゆく男(Thinner)」We two are thinnerは、「なんでもかんでもカロリーを減らしにかかられて腹が立つよね」「痩せがひどくなるとひどく疲れやすい」「冬場にひとりだけ漫画の中の表現みたいに歯をカチカチ鳴らして震える」「夏場のクーラーは魔物」「カロリーキープのために無理してお酒を飲んで寝る」などと、普段あまり人に話せない自分なりのそう深刻でもないけどなんかなぁという話題を交わすことができ、ちょっとうれしかったです。


車中、カズさんナビにより名古屋市内方面、海の方から金山に向かってくださいと指示されて、金山といったらなぜかラブホテルのイメージしかなかったので食べ物屋とかそうなかったよなぁと考えながら、遠くにJRセントラルタワー(名古屋の市内のどこからでも見える、でっかい名古屋駅の上にどーんと建った双子の塔みたいなビルヂングを見ながら、奇妙な方向に転回しつつ一方通行をスイスイまわりながらお店に到着しました。


駅の裏側、世界の山ちゃん*1の近くにそのお店にありました。ぱっとひと目見ただけで気になる点が満載の戦車。

 到着
到着しました ケロケロしてまいりました




まず最初にカエルのキャラクターに「これってギリギリで大丈夫……じゃないよね……」と不安になり、チャイニーズ・フードのチャイナ部分のスペルが間違ったまま相当年季がいっている表示に不安になり、そしていったい店の名前はどれなのかも不安になりました。不安タスティックが多すぎて、この店自体に不安タスティック爆発中。

若干店の外観微妙だよな……と前でウダウダしていても仕方がないので、「負けるならばさわやかに砕け散るがごとく惨敗させてくれ、中途半端はいやだ」という思いを胸に秘めながら入店すると、中はごく普通の中華料理屋さんでした。お客さんは仕事帰りのサラリーマン三人組と、カウンターでひとりで新聞を読みながらビールを飲んでいるおじさん一人で、なんら「かえる屋感」を感じさせるものはありませんでした。


 おっちゃん高速で動く
高速で調理するおっちゃん。常に笑顔(見づらいけど

奥のテーブルに向かいながら、同行したカズさんが「前に何回も来ているんですよ。みんなおいしいって喜ぶから」という話をすると、おっちゃんは本当にうれしそうに笑って、「うれしいなぁ、うれしい」と喜んでくれ、急にカウンターの中に戻り、鍋を振るい始めました。テーブルでぼんやり最近の話をし始めながらメニューを眺めていると、小走りでおっちゃんは一皿机の上に置いてくれ、これ食べながらメニュー考えてね。これサービス!と言い、いきなりオーダーする前に一品をくれました。鳥皮なのにさっぱりした炒め物で、「意外に普通においしいんじゃないか」と驚きました。それよりもオーダーの前に一品をくれるおっちゃんが愛らしすぎるよ……





 お品書き
とにかくカエル。かえるかえるかえる


かえるを頼むorDieといったお品書。迷わず蛙ラーメン、蛙のからあげ、蛙チャーハン、ヤモリラーメンをオーダー。ヤモリラーメンというと西じゃなく東海の魔女が調合しそうな一品ですが、どんなのかと聞くと、漢方薬的な干したヤモリを煎じたものが入っているそうで、薬膳のようなものということでオーダー。丸のままのヤモリがドンと上に乗っているのかと期待半分でしたが、安心したのかがっかりしたのか難しいところ。さあもうイモリでもヤモリでもどっちでも来い。どっちもペットとしてかわいいし好きだけれど、これは牛をかわいいと思いつつ牛肉を食べるのと一緒のことかいや違うかもしれんね……と三点リーダ満載の思考はぐるぐると回りながら、カズさんは最近孵化させたシマヘビに注射を使い胃に直接ハイカロリー輸液を注入するみたいに与えるんだよ。そしてシマヘビはけっこう噛むね噛まれたねと笑顔で話していました。


かえるづくし
カエルのからあげ、かえるチャーハン、カエルのスープ


おっちゃんが笑顔で持ってきてくれたカエル料理。カエルの足の形そのまんまのからあげ、ライスの間からシンクロの演技っぽくすっと伸ばされたその筋肉質な足(だけ)が威圧感満載のチャーハン。ライスはパラパラッといい感じ。そして中華料理屋で必ず出てくる、なにスープっていったらいいんだろうこれはおまけ的にちょこんと来るスープ(名前を確認したことはない)。




まず、わかりやすくカエルの足の形まんまのからあげを手で持ち、豪快にガブリ。揚げたての衣の歯ごたえナイスかつ、淡白だけどよく締まっている弾力ある身で、「あれ……うまい……おかしい気もするけれど普通においしいよな」と驚きながら話し合いました。「そうでしょうそうでしょう。ここ普通においしいし、おっちゃん楽しい人でしょう」とカズさんはちょっと誇らしげに笑いました。横にあるカエルラーメンも、麺は中太。スープにしつこさを感じさせないコクがあっておいしい……これも見た目のカオス感から想像できない感じでおかしいよね……と思うと、食べながらまた笑えてきました。調理が一段落ついたおじさんもテーブルのところにやってきて、「今度店が移転するんですよ。これからは商売というより感謝する感じで恩返し的に働きたいし、新しい店になったらまた来てよね。今度けっこういい場所になるし。待ってるよ」と言いながら笑顔。


かえるラーメン
深い沼に見えて意外とさわやか 蛙ラーメン


そんなおじさんの着ている調理服の胸にはひらがなで「かえる」と書かれていました。店の外にある看板には「FROG」、その脇には「来福軒」という屋号。そして笑顔のおじさんの胸に「かえる」。なんともいえない微妙に割り切れない気持ちになりながらも、おじさんの愛らしすぎる笑顔にやられました。


やさしいおっちゃん
見にくいけれど胸にはいつも「かえる」の文字が

カエルをメインにして商売をしているのは、おっちゃんは結構いい感じの薬膳を扱う四川料理屋で修業して、そこで学んだちょうどいい材料が「(いろんな意味で)元気モリモリ、がんばれる」カエルやイモリということでやっているとのことでした。新しいお店になったら、おっちゃんのいいキャラクターを満喫するためにまた行こうと決意しました。


さかなクンも魚をかわいがるのも食べるのも大好きとてらいなく話しているので、カエルをかわいがりながら同時にカエルを食べることもなんの問題もないよね……


ごちそうさまでした!

*1:名古屋の手羽先居酒屋。「世界の」という部分については前から疑問に思いつつも調べずに済ます箱にいれたまま