キンキー・アフロが流れてた 最後のリクエスト/ルイーズ・ヴォス

最後のリクエスト

最後のリクエスト

  • 作者: ルイーズヴォス,Louise Voss,矢羽野薫
  • 出版社/メーカー: アーティストハウスパブリッシャーズ
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 単行本
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最後のコインに祈りを込めてミッドナイト・ディー・ジェイではなく、シリアスな本。
イギリスからアメリカに引越し、そこでブルー・アイデアという人気グループの作詞・作曲・ベースを担当したヘレナ。彼女はグループを解散してから人気DJとなり、第二のキャリアを築いていたけれど、ふとした事故で、片耳の聴力と片目を失い、顔もぐちゃぐちゃになってしまった。やりがいを感じていたDJの仕事を失い、彼女は死ぬことを考え始めた。死ぬ前に自分の人生を文章にして、今までの人生におけるサウンド・トラックの選曲を始める……

心から大事な親友との絆、別れ、バンドをはじめた時の胸の高鳴り、初体験、くずみたいな人との恋愛、新しく生まれそうな愛、愛しいけれども煩わしい愛情。とてもたくさんの思いが、過去と現在を行き来しながら詰まっています。25-35ぐらいの年代の人にぴったりかもしれません。ロッキン・オン、クロスビートの読者ならなお楽しめます。

若いころにワクワクして読んでいた、音楽雑誌の向こう側のような舞台、同世代だったら分かる音楽。エルヴィス・コステロの「オリバーズ・アーミー」、ブラーの「ディス・イズ・ア・ロウ」、ハッピー・マンデーズの「キンキー・アフロ」。
このマンデーズが演奏している情景がちょっとだけ出てくるのですが、それだけで私はこの本が大好きになりました。

Kinky Afro tale

かつてハッピー・マンデーズを見たくて遠くまで電車で見に行ったときのことを思い出しました。ちょっとこれはどうかと思えるほど狭くて汚いクラブ(風の建物)の中で、ここで待っていればマンデーズの演奏が始まると聞かされて待っていました。しかし、私はまだ子供で、それがバレて外に出されないかとか、周りにいる外人たちはみんな目がどんよりするか、明らかにもう駄目だと分かるぐらいにヘロヘロなのばっかりでした。始まる気配はまったくなく、私が誤解したかだまされたと思ってあきらめようと思った午前一時過ぎに、ベースとドラム、ギターの人がセッティングを始めました。しかし、私はベズというダンサーとショーン・ライダーというボーカルしか顔が分からないので、どうなんだろうと思い、ステージ(というか目の前)を注視していると、ベースとギターが「キンキー・アフロ」のフレーズを弾き始めました。私はうれしくなって一瞬立ち上がりましたが、他の観客は死んだ目でぼんやりしていて、一人だけ張り切って恥ずかしい思いをしました。すこし経つと、周りが立ち上がらなかった理由が分かってきました。
三十分以上、ベースやドラムの人は同じフレーズ(結構単純)を弾き続けているのです。彼らの顔はガン決まり。演奏を気にせずにレコードをかけたりするDJが出てきたり、これは駄目だと思いました。
きりがないな、眠いなと思って後ろを振り返ると、驚いたことにベズという顔の細長いダンサーが、なにか酒を手にしたまま居眠りしていて、ボーカルのショーン・ライダーはトイレの前で誰かと笑っていました。ダラダラ演奏を始めないのは、別段悪気があるわけではないようでした。
結局、それから三十分ぐらいしてから一呼吸置いて、ショーンが私の前に来て、「キンキー・アフロ」を演奏しましたが、一曲歌うとまたどこかに消えてしまいました。ショーンはそれっきりで、ベズはずっと眠っていました。ハッピー・マンデーズのほかのメンバーは地味に違う曲を演奏したり、地味なメンバーが歌をちょっと歌ったりして一時間半ぐらいでいなくなってしまいました。ショーンは下痢だったそうです。タクシーを頼むにはお金が不安で、屈強な外人が企んだ笑顔でビール*1を勧めてきました。バスが出るまで後何時間か数え、まさに夜明けを待ちわびていました。時計の進むそのスピードの遅さに苛立っていましたが、今となってはいい思い出です。
その頃、ザ・ザとかエレクトロニックもいました。


ショーン・ライダー関連のアルバムのアートワークはどれも素晴らしい。
Pills Thrills & BellyachesYes PleaseIt's Great When You're Straigh

*1:なにか楽しくなる薬入り